インタビュー

地域×宇宙の可能性とは。LAND INSIGHT・遠藤嵩大さんが語る、衛星データで農業の未来を切り拓く挑戦。

南相馬市と協力し、衛星データを活用した農業行政の効率化に取り組む「LAND INSIGHT株式会社」の取締役・遠藤嵩大さん。福島県の相馬エリアで挑戦を続ける遠藤さんに、今回の取り組みの背景、直面する課題、そしてこれからの展望についてお聞きしました。

遠藤嵩大(えんどう・たかひろ)北海道大学大学院を修了後、2020年にINCLUSIVE株式会社へ新卒入社。 2022年に立ち上げたグループ会社 LAND INSIGHT株式会社にて、福島県南相馬市を拠点として人工衛星データを活用した地域課題解決のためのソリューション開発に従事。福島県出身。

地域の課題に寄り添いながら、技術の社会実装を推進する

ーまず、南相馬市で衛星データを活用した農業行政の効率化プロジェクトを始めたきっかけを教えてください。

2023年に南相馬市と協力して、衛星データを用いた農業行政の効率化プロジェクトを開始しました。市の担当者の方々から課題をヒアリングさせていただくなかで、特に農業の現場では効率化が必要で、衛星データが課題を解決できると感じたことがきっかけです。

市町村の農業行政においては、農地を実際に確認して回る現地調査の業務が数多く存在しています。例えば、農家さんの経営を支える交付金制度において、申請した通りの作物を作っているかを確認するなどです。

市内全域に分布する農地を見て回らなければなりませんし、多くの作物が育つ時期である夏に、炎天下の中での確認も余儀なくされています。また、人手の確保が難しくなっていく中で、人が現地で見るという確認方法についても、この先続けていけるのかを考えなければならない状況でした。

こうした負担、課題に対して、人工衛星データが解決策を提供できるのではないかと考え、プロジェクトを開始しました。

取り組みの中で直面した課題は?

たくさんの課題がありました。技術的に解決策となりうるのかわからない状態からのスタートでしたし、作物を判定する精度はどれくらいなのか、衛星データを活用することで費用はどの程度抑えることができるのか、検証することを決めて取り組んでいきました。また、制度的な面でも、業務に組み込むために既存の運用ルールなどを調べる必要がありました。農業行政の用語や制度を理解するのにも一苦労でしたね。

現場の業務を理解するために、市の担当者がやられている現地確認に同行しいたり、細かく業務内容のヒアリングをしたりしました。まだ成果が見えない段階から丁寧に教えていただいて、課題の解決へ向けて積極的に協力していただきました。サービスの提供者と利用者という関係性ではなく、課題の解決策を共に見つけ出すパートナーとして向き合っていただいたからこそ、成果につながったのではないかと思います。

南相馬は、挑戦を受け入れるまち。衛星データで地域の活性化に挑む

ー南相馬市での取り組みが広域に拡大しているとのことですが、直近ではどのような取り組みをされていますか?

南相馬市での実証成果を受けて、福島県を中心に、4つの県、22の市町村と協力して広域実証事業を開始しました。この実証事業では、より広い範囲で衛星データを使った農業行政業務の効率化に挑戦しています。

画像:lowpower225/Shutterstock

実際、この取り組みがメディアに取り上げられたことで、他の自治体からも多くの問い合わせを頂いています。南相馬市や近隣の市町村だけでなく、全国的な課題の解決に貢献できるものだと考えています。今後、他の地域でも同様のサービスを展開していきたいと考えています。

ー南相馬市で事業に取りんでいる中で感じた地域の特徴はありますか?

新しい人を受け入れ、新しい技術を活用していく、挑戦に積極的な地域だと感じています。今回のように、課題解決につながる新しい取り組みに非常に協力的な場所だと感じますし、これからも挑戦を続け、全国に先駆けて課題を解決していく先進的な地域になっていくと考えています。

衛星データにおいては、農業分野だけでなく林業や防災での活用など、幅広い活用の可能性があります。南相馬を含む”イノベ地域”と言われるエリアで、こうした技術の実証や導入が進むことで、地域全体の活性化に繋げることができると思っています。

地域との信頼関係を基に未来を見据える

ー最後に、今後の展望についてお聞かせください。

南相馬市での取り組みからスタートした農業行政の支援をより多くの地域に広げていきたいと考えています。また、すでに、衛星データをこんなことに使えないか?という新しい相談もいただいています。課題に向き合い、検証を続けることで、全国に貢献できるサービスの開発に繋げていきたいです。

そして、私たちが事業に取り組む宇宙産業やデータサイエンスは非常に魅力的な分野だと思います。若い人たちが挑戦したいと思うような仕事をこの地域につくることで、さらに面白い地域にしていきたいです。

これからも、地域との信頼関係を大切にしながらより良い未来を創造するために挑戦していきたいと思います。

ーー南相馬市が持つ可能性の大きさ、そしてそれを引き出すために行われている取り組みの重要性を改めて感じました。衛星データが、農業、林業そして防災分野で、地域にどのような変革をもたらすのか、これからの展開が楽しみです。

連載「情熱の相馬人」では、相馬のこれからを創るさまざまな人の魅力に迫ります。
記事の一覧はこちらから。

【画像・参考】
lowpower225/Shutterstock
LAND INSIGHT 株式会社