インタビュー

南相馬から宇宙へ―地域と共に挑む、日本のロケット開発最前線【小田翔武さん】

南相馬を拠点に、現在ロケット開発に取り組んでいる宇宙スタートアップ企業・AstroX株式会社。代表取締役CEOの小田翔武さんは、IT業界での起業を経て、日本の宇宙産業の可能性に挑むことを決意されたそうです。宇宙ビジネスを始めたきっかけや、南相馬を選んだ理由、事業を通して実現したい未来についてお話を伺いました。

小田翔武(おだ・しょうぶ)関西大学環境都市工学部卒業。アーティスト活動も行いながら、IT企業など複数の企業を創業・経営し、売却を経験。2022年、幼少期からの夢だった宇宙産業に挑戦すべく、民間宇宙ベンチャー「AstroX株式会社」を設立。日本の宇宙開発における衛星打ち上げロケットの不足解消を目指し、小型ロケット開発を進めている。

“とりあえずやってみる”姿勢で、宇宙産業へ足を踏み入れた

画像:相馬LIKERS

―まずは、どのようなきっかけで宇宙産業の仕事に携わるようになったのか、これまでの経緯をお伺いできますでしょうか。

昔から宇宙や大規模物理学が好きでしたが、仕事にしようとは思っていませんでした。もともとIT系の会社を立ち上げて経営していたんです。でもその中で、「やっぱり海外に勝つのは難しいな」と実感して……。日本は宇宙産業のポテンシャルが高いことを知り、今こそ宇宙の領域でビジネスを始めたいと思いました。

日本の宇宙産業を盛り上げるためには、ロケットを作らないといけません。そこでまずは、宇宙産業のインフラである輸送(ロケット)を作ることから始めました。

―AstroX起業以前には、IT企業の経営やアーティスト活動など、様々な分野に挑戦されてきたそうですが、挑戦の原動力はなんでしょうか?

子どもの頃から好奇心旺盛なタイプでした。親も、自分がやりたいといったことに対しては基本否定せずに、好きにやらせてくれていた環境だったことが大きいと思います。何に対しても、“とりあえずやってみる”という姿勢が身に付きましたね。

会社経営やアーティスト活動など、いろいろな経験をしてきましたが、自分の中ではバラバラなことをやっている意識はなくて、ずっと軸は変わっていないんです。アウトプットが違うだけで、自分が何をしたいかはブレていないと思っています。

―小田さんが仕事をするうえで大事にしていることを教えてください。

これまでの人生で、価値観を変えた出来事は2つあります。1つ目は、大きな交通事故に遭ったこと。死んでもおかしくないレベルでした。奇跡的に助かって、今でこそ元気に働けていますが、「自分の人生は永遠じゃないんだ」と改めて実感したんです。

2つ目は、以前に経営していたITの会社で数億円単位の損失を出してしまったこと。一時期はろくに食事ができなくなるくらいメンタルがやられましたが、一度それを乗り越えると、意外となんとかなったなとも思って。

“自分の人生は有限なんだ”という焦燥感と、“大抵のトラブルはなんとかなる”という楽観的な感覚。相反するようでいて、仕事においてはどちらの感覚も大切なのではないかと考えています。

南相馬を選んだ決め手は「意思決定のはやさ」

AstroXが開発を手掛けたロケット
画像:AstroX株式会社

―過去に創業されたIT企業と、AstroXでは、経営や仕事への取り組み方が異なりますか?

IT企業と宇宙ビジネスでは、事業の進め方も全然違います。過去に経営していた会社では主にソフトウェア系の開発を手掛けていたのですが、だいたい1週間くらいで一気にシステムを作ってリリースして、運用しながら改善して……といったスピード感でサービス展開をしていました。

今のモノづくりにおいては、時間をかけて実験を重ねていかなければならないし、仕事の進め方がまるで違います。専門家の方や研究機関に力を借りなければ成り立たないので、自分たちだけでは完結できないところも、環境の違いを感じる点ですね。

―AstroX起業にあたり、南相馬に拠点を構えた背景や、決め手となった理由はなんでしょうか。

南相馬にもともと縁があったというわけではありませんでした。起業するにあたって「どこで立ち上げるのが一番いいのか」を考えて、スピーディーに事業を進められる場所を探していました。そんな時、起業支援がある市町村のひとつとして、投資家の方に紹介いただいたのがきっかけです。

初めて南相馬に行って行政の方と話した時、意思決定のスピード感や実行力の高さがすごいなと感じましたね。結果的に、それが決定打となりました。

―さまざまな人や組織と連携しながら事業を進められていると思いますが、南相馬の人や土地に対してはどのような印象を持たれましたか?

地域の高校生たちが視察に来た時の様子
画像:AstroX株式会社

初めて南相馬を訪れた時に地域をアテンドしてもらったのですが、みなさんポジティブで明るい人が多いという印象でしたね。よそ者が来た、みたいな空気を全く感じませんでした。外部の人も受け入れつつ、みんな地に足ついて生活している強さを感じました。

拠点の決め手になった“スピード感”に関しても、最初の印象から今に至るまで変わっていません。最近も行政との関わる中で、「他の自治体だったらもっと時間かかっていたかもしれない」「南相馬でこの事業がやれてよかった」と思った瞬間があって、当時の決断は間違っていなかったのだと思いました。

ロケット打ち上げの瞬間、みんな空を見上げていた

小田さんとCTO・和田豊さん
画像:AstroX株式会社

―事業を進める中で、特に大変だったことや嬉しかったことをお聞かせください。

やっぱり資金調達は大変ですし、人材の採用にも苦戦しています。お金に関しても、モノに関しても、人に関しても、いろいろな壁が常にあります。でも、それを毎日少しずつ乗り越えていくしかないのかな、と。

一方で、嬉しいこともたくさんありますよ。特に昨年11月にロケットの打ち上げが成功した時は心から感動しました。ロケットを打ち上げる日、地域のみなさんもたくさん見学に来てくれたんです。当たり前なんですけど、打ち上げの瞬間は、その場にいた人たちみんなが空を見上げていました。

そうしたら、見学に来てくれた地域の方の一人が「震災があった時はこの場所で、みんな下を向いていた」「でも、今日はみんなで上を見ることができて嬉しかった」と言ってくれて。自分たちのロケットが、南相馬の明るい未来のひとつになっていることを実感して本当に嬉しかったですね。

―宇宙産業で目指していることや、AstroXで掲げている目標について教えてください。

今までと変わらず、南相馬の人たちと一緒に成長することを大事にしていきたいです。自分勝手にガンガン進めるのでは意味がないので、地域との連携は欠かせないと思います。AstroXが成長することで地域の方が胸を張れるような、「あいつらの面倒見てやったのは俺だよ!」なんて言っていただけるような存在になりたいですね。

中長期的な経営目標として「宇宙開発で“Japan as No.1”を取り戻す」をビジョンに掲げています。世界時価総額ランキングで上位に食い込む会社にしたいんです。

―最後に、読者のみなさまへメッセージをお願いします。

ロケット打ち上げのイメージ画像
画像:AstroX株式会社

宇宙に関するビジネスに興味はあっても「自分には関係ない」と思う人は多いのではないでしょうか。でも、実際はさまざまな技術や人の力が関わってできているものなので、あなたの知識や経験が役立つ場面もあると思います。ちょっとでも興味があるなら、一緒に仕事しませんか?ぜひご連絡ください!

今回のインタビューで、小田さんの仕事に対する姿勢や熱意、経営者から見た南相馬の魅力をお聞きすることができました。AstroXの今後と、日本の宇宙産業の発展が楽しみですね。

連載「情熱の相馬人」では、相馬のこれからを創るさまざまな人の魅力に迫ります。
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