5月24日から3日間にわたって開催される「相馬野馬追2025」。今回は、相馬野馬追執行委員会委員長を務める南相馬市の市長・門馬和夫さんに、相馬野馬追の魅力についてお話を伺いました。野馬追が紡ぐ伝統と文化、騎馬武者たち一人ひとりの熱い思いを、どう未来に繋げていくのか。市政のビジョンとともに語っていただきました。
門馬和夫(もんま・かずお)南相馬市長、相馬野馬追執行委員会委員長。南相馬市原町区出身。東北大学工学部を卒業後、原町市役所(現・南相馬市役所)に入職。2014年に南相馬市議会議員となり、2018年に南相馬市長に初当選。2022年には2期目の市長に就任。地域の伝統行事「相馬野馬追」の執行委員長としても尽力し、震災後のまちづくりと文化の継承に力を注いでいる。
さまざまな生き方を受け入れるまちへ

―長年地域の市政に携わられてきた門馬市長ですが、市長の目から見て、改めて南相馬の土地と人の魅力は何だと思いますか。
南相馬市は比較的気候も穏やかで暮らしやすく、素直でおおらかな人が多い。心豊かに生きてきた人たちのまちだと思っています。震災は大きな試練となりましたが、人々の根っこは変わっていないと感じますね。震災以降は周囲への感謝の気持ちがさらに強まり、「みんなで協力しよう」というマインドが根づいている地域です。

画像:南相馬市
南相馬市で新しい挑戦をするために移住してきた人も多いので、そういった人たちを応援する風土もあります。移住者の方たちが努力してくれている部分もありますが、受け入れる側の人たちの前向きな姿勢あってこそ、この環境は成立していると思います。
―門馬市長が目指すまちづくり、理想のまちの在り方について教えてください。
わたしにとってのまちづくりの目標はシンプルで、みなさんが心豊かに暮らせる南相馬市がずっと続いていくこと、そういったまちをずっと残していくこと。それだけなんです。一度市外に出ていった人も、また戻ってきたいと思ってもらえるような……。地域の人々が繋ぐ、やわらかな関係を大切にしながら、歴史や思いを残していける場所にしたいですね。

画像:南相馬市
その中でも、新しいビジネスや研究にチャレンジしたい人、そのために移住してくる人もいらっしゃいます。挑戦する人も、ゆったりのんびり暮らす人も、いろんな生き方ができるまちであり続けたいと思います。

画像:南相馬市
心を震わす、野馬追の“音”
―ここからは相馬野馬追についてお話をお伺いします。門馬市長は子どものころから野馬追が身近なものだったと思いますが、どのような印象を持っていましたか。

特に印象に残っているのは、メイン会場である雲雀ヶ原祭場地に向かって騎馬武者が進軍する姿でしょうか。
相馬野馬追は騎馬武者だけで約400騎、行列に参加する人は1000人以上にもなります。騎馬が道路を何キロも歩いていくわけですが、何百年前の相馬の風景が目の前でおこなわれていると思うと圧巻です。まるで別の時代へタイムスリップしたような感動がありますね。
―特に注目してもらいたい、楽しんでもらいたいポイントはどこでしょう。
野馬追は目で見ても凄いですが、わたしとしては“音”も重要な要素だと思っています。騎馬行列が通った時のリズミカルな蹄の音や馬のいななき、騎馬武者が背中に背負っている指旗がバタバタッと風にはためく音……。ぜひ野馬追の“音”を肌で感じてもらいたいですね。

―現在は相馬野馬追執行委員会の委員長として野馬追に関わられていますが、野馬追に対する思いの変化や、新しい発見などはありましたでしょうか。
執行委員長としては、無事に終わった時に心からホッとしますね。多くの人が参加する行事ですから、とにかく大きな怪我なく、と。
いち観客として見ていた時と違うところで言うと、参加者一人ひとりの情熱、野馬追にかける思いを感じられるようになったことです。野馬追に対して熱い思いを持って取り組んでいる人々が何百人といるからこそ野馬追が成り立っている。委員長として、その思いを間近でひしひしと感じるようになったことが大きな変化でしょうか。

画像:南相馬市
朝から乗馬の練習をして、休みなく馬の世話をして、鎧の手入れをして……。本人の努力はもちろん、家族や周囲の支えもあってこそ出場できるものですから。そうして400騎もの武者たちが集っていると思うと圧倒されます。執行委員会としても、一人ひとりの熱い思いや、みんなのバックグラウンドをもっと発信していきたいところです。
たとえば、執行委員会は初日の朝8時~9時頃からおこなわれる公的な行事からフォローしていますが、その前に騎馬武者たち個人個人で出陣の儀式があります。それぞれの家で安全祈願をして、組頭たちのところに集まって、口上を述べて、騎馬武者たちが一人また一人と増えていく。そういった出陣前の姿、先輩から後輩へ歴史を紡いでいく様も、もっと多くの人に伝えられるといいなと思っています。
女性騎馬武者たちの出陣に注目!
―今年の相馬野馬追の見どころを教えてください。
今年の見どころは、女性騎馬武者たちの出陣です。これまで「20歳未満の未婚女性」に限られていた参加条件が撤廃され、記録が残る中で過去最多となる40名の女性が騎馬武者として出場されることになりました。そのうち20歳以上の方も8名含まれていて、念願の出陣という方もいらっしゃいます。プレッシャーもあると思いますが、ぜひ注目いただきたいですね。
他にも、複数頭の馬と共に出場されるご家庭もあれば、今年初陣を飾る子どもたちなど、家族が一丸となって取り組むことで実現する出陣の姿もあります。一人ひとりの物語にも関心を持ってもらえると、野馬追をさらに楽しめるのではないでしょうか。

画像:南相馬市
―最後に、相馬野馬追の観客の皆さまへメッセージをお願いいたします。
相馬野馬追は、震災でも途絶えなかった文化です。熱い思いを持ったもののふの集まりが、野馬追の歴史を長年刻み続けてくれています。そんな相馬の侍たちの心意気を見てもらえたら嬉しいです。ぜひ現地で、騎馬武者たちの姿と思い、そして野馬追の“音”を肌で感じてもらいたいと思います。
―今回のインタビューで、門馬市長のまちづくりに対する思いや、相馬野馬追の伝統と魅力についてお聞きすることができました。今年の野馬追も盛り上がりが楽しみですね。
連載「情熱の相馬人」では、相馬のこれからを創るさまざまな人の魅力に迫ります。
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